少年時代には野球とチェロを両立させていた神田さん。現在は京都市立芸術大学弦楽専攻2回生ながら、すでにCD収録や多くのコンサート出演の経験を積んでいます。尊敬するラファエル・ベル氏が指導するベルギーの音楽大学への留学を目指し、さらなる音楽の深まりを追求している神田さんに、お話をうかがいました。
「10日間で掴んだ、これからの音楽との向き合い方」
―室内楽のCD収録をはじめ、すでに数多くの演奏会に出演されておられますが、まずチェロを始めたきっかけを教えてください。
音楽好きな母の勧めで、5歳のときにチェロを始めました。とはいえ、中学2年生まではピッチャーで4番を任されるほどの「野球少年」でした。週末に野球の試合とチェロのレッスンが重なるたびに、「え~~!」と文句を言いながら、バットとグローブを急いでチェロに持ち替え、渋々ながらも、音楽には触れていたーそんな少年時代でした。
―今でいう「二刀流」ですね。神田さんは「京都フランスアカデミー」の創設にも関わったヴァイオリニスト・森悠子先生とご縁があったそうですが。
はい。小学3年生の頃から、森先生が主宰されていた子ども向けの室内楽講座「プロペラプロジェクト」に参加していました。ただ、当時はとにかく野球一筋で(笑)。チェロで演奏するのもジブリの曲やバッハのやさしい小品程度。それでもチェロを続けてこられたのは、「プロペラ」では世界各国で活躍するプロの演奏家たちの音に触れられたからだと思います。彼らの演奏は、音の力で胸を打つようなインパクトがありました。
中学1年生のときに、フランスで講習会が開かれると聞きました。どうしても参加したくて、両親を説得しました。「チェロのため」というより、「フランスに行ってみたかった」が本音です(笑)。でも、この2週間が、チェロとの関係を見つめ直すきっかけとなったのです。
講師のひとりであるチェリスト、ラファエル・ベル先生の演奏に衝撃を受けました。ベル先生はアントワープ交響楽団の首席チェロ奏者です。プロの音色と、孫に接するように優しく丁寧に指導してくださることがうれしかった。なにより、参加者たちの、真剣に音楽と向き合っている姿が、とにかくカッコ良く思えたんです。僕が「音楽を真剣にやろう」と思うきっかけは、このフランスでの体験です。自分にとって大きな意味を持っています。
―中学時代の「野球少年」から一転、京都市立京都堀川音楽高等学校、そして京都市立芸術大学へと進学されました。今年がアカデミー初参加とのことですが、何か“気づき”はありましたか?
僕は腕が長いので、どうしても余ってしまい、手首が不自然に折れてしまうクセに悩まされていました。今回指導してくださったアンヌ・ガスティネル先生は、右手の奏法に特化した指導法をお持ちで、体の使い方を毎回とても丁寧に教えてくださいました。次第に手首の動きが楽になり、音色に明らかな変化が出てきたのは、無意識に負担をかけていた動きがなくなったせいかもしれません。小さな変化ですが、積み重なって大きな音の変化につながることを実感しました。これは、非常に重要な気付きです。
―他の受講生のレッスンも聴講されましたか?
もちろんです!ほぼ全ての公開レッスンに足を運びました。どの楽器のレッスンでも、身体の使い方に関する指導は参考になりましたーたとえば、譜面を見るためにうつむく姿勢や、奏者が音を出すときの体の向きなど、演奏の背景にはたくさんの身体の工夫がある。きっと僕自身が室内楽を好み、他の楽器と音を合わせることに関心があるからこそ、こうした視点に敏感なのかもしれません。楽器が違っても、演奏における共通点は多く、また日本とフランスの解釈の違いを直感的に感じ取ることもあり、本当に学びの多い時間でした。
―神田さんは「受講生コンサート」に選ばれましたが、実際に演奏してみて、いかがでしたか?
まずは、他の出演者のレベルの高さに圧倒されました。どの出演者も本当に素晴らしくて、口が開いたまま(笑)。吸収したいヒントが無数にあって、自分の演奏にも取り入れたいことばかりでした。
―神田さんの演奏も印象的でした。満足できる内容でしたか?
演奏したのはドヴォルザークのピアノ五重奏曲。冒頭がチェロのソロから始まるので、かなり緊張しました。音の方向性について何度もメンバーと議論を重ねて、それでも答えが出ない箇所もありましたが、終わってみれば、「楽しかった」のひと言です。ほかのメンバーは全員東京からの参加だったので、「今度は東京で会おう!」と約束しています。こうした繋がりが得られたことも、かけがえのない財産ですね。
―アカデミーでの体験を振り返ると、いかがでしたか?
アカデミーでの2週間は、今までの音楽人生の中でも、「過去一」充実した時間だったと断言できます。先生方の熱量はもちろんですが、通訳や伴奏者の方々の手厚いサポートのおかげです。日本語が通じなくても、通訳の方々がこちらの意をくんで、細やかなサポートをしてくださったおかげで、自分のキャパシティを超えるほどの情報量を得ることができました。ここまで夢中になって音楽に没頭できる環境は、なかなかありません。この2週間は貴重な「宝物」になりました。「絶対に受講すべき」だと言いたいし、受講生コンサートも、もっと多くの方に聴いてほしい、多彩でレベルの高いコンサートでした。
―今後の音楽活動の目標を教えてください。
森先生からは、何度も「マシューくんにはぜひ留学してほしい」と言われてきました。尊敬するラファエル先生に師事したいという思いが強いので、先生が教鞭をとられているベルギーの音楽大学への留学を目指しています。さまざまな国の人と出会い、現地の文化を肌で感じながら、自分の音も、音楽への理解も、更に深めていきたいです。