川崎梢さん

受講生インタビュー

川崎梢さん

2025年 ピエール・レネール教授 ヴィオラクラス、ディアナ・リゲティ教授/特別演習 「Concerts fleuris – コンセール・フルリ」受講生

高校2年のときにヴァイオリンからヴィオラに転向した川崎さん。あたたかく豊かな音色に惹かれ、現在はヴィオラ専攻として日々研鑽を積んでいます。これまでなかなか機会のなかった弦楽三重奏やフルート四重奏に挑むため、3回目の参加となる今回は、ヴィオラに加えて、室内楽のプロジェクトにも参加。プロフェッショナルな演奏家と共に音楽をつくり上げる中で、「合わせる」だけでなく「共演する」ことの意識を深めたという川崎さんに、室内楽プロジェクトを中心に、お話をうかがいました。

「音を重ねて気づいた、“合わせる”から“創る”への楽しみ」

―今回の室内楽プロジェクトに参加しようと思ったきっかけは何でしたか?

弦楽三重奏やフルート四重奏を勉強できる機会が身近になかったので、少しでも経験が積めればと思い、参加しました。プロの教授と演奏できる貴重な経験ができることも魅力でした。プログラムが2曲とも古典派の作品だったので、アンサンブルの基礎を学べると思ったのも、理由の一つです。

―弦楽三重奏やフルート四重奏という、あまり日常的ではない編成に惹かれたのですね。さて、音楽を始められたのはお姉さんがヴァイオリンをされていたからだと伺いましたが、ヴィオラに転向するまでにはどんな経緯があったのでしょうか?

4歳からピアノを、5歳で姉と同じヴァイオリンを始めました。コロナが蔓延した高校生の時に、何とも言えない“閉塞感”というか、ヴァイオリンへの行き詰まりを感じて、師事している先生に打ち明けたところ、ヴィオラを勧めていただいたんです。練習するうちに、ヴィオラ特有のあたたかい音色が自分に合っているように感じて。前に出てメロディを奏でるのではない、内省的な部分が自分の性格に合っていたのかもしれません。大学はヴィオラ専攻で受験しました。

―今年でアカデミー参加は3回目とのことですが、ここでのプロジェクトは大学の授業や演奏会とはまた違った雰囲気だったのではないでしょうか。

はい。限られた2回のリハーサルと1回のゲネプロという非常に短い準備期間の中で、従来のような「教え・教えられる」関係性ではなく、先生自身の経験や音楽への考えをグループ全体に共有してくださり、メンバー全員で「共に創り上げていく」プロセスに大きな違いを感じました。また、プロの先生と舞台を共にできることは、とても貴重で光栄な経験でした。

―限られた時間だからこそ、密度の濃い関わり方になったのかもしれませんね。特に印象的だったアドバイスややりとりがあれば、ぜひ教えてください。

曲の背景について丁寧に語ってくださったことが、特に印象に残っています。たとえば、シューベルトの弦楽三重奏曲は、彼が10代の頃に作曲し、大きなホールではなく親しい人々が集まるサロンのような空間で演奏されることを想定していた、というお話がありました。モーツァルトについては、「歯切れよく、軽やかで愛らしい表現を」と繰り返し助言いただき、その音の立ち上がりや質感に対するこだわりがとても印象的でした。また、自分が伴奏にまわる場面と、主旋律に近い役割を担う場面とでの音量や音色の使い分けについての指導も、深く心に残っています。

―他の学生メンバーと一緒に演奏するうえで、川崎さんが大切にしていたことはありますか?

とにかくお互いがどのように演奏するのかをよく聴いて合わせていくことを大切にしていました。

―本番のステージも、そうした信頼の積み重ねが表れていたのではないでしょうか。当日はほぼ満席の状態でしたね。ステージからご覧になられたコンサートの雰囲気はいかがでしたか?印象に残った場面などがあればぜひ。

とてもあたたかい空気の中で、先生も一緒だからと安心して弾くことができました。自分のことだけに集中しすぎないで、周りを見ることもでき、心に余裕さえあったかもしれません。今まで本番を楽しかったと思うことは少なかったのですが、このコンサートはとても達成感があり、人とアンサンブルすることがこれほど楽しいのか、と思えるほどでした。

―まさに“共演”という感覚を得た貴重な機会だったのですね。プロの演奏家との共演のなかで、特に学びになったことはどんなことでしたか?

それまでは、室内楽において最も大切なのは「周囲にしっかり合わせること」だと考えていました。でも、実際には、ただ音を揃えるのではなくて、「共に音楽を創り上げていくこと」が何よりも重要なのじゃないかと気づかされました。作品の背景や作曲家についての理解を深めることで、音色やニュアンスにも説得力が生まれるということ、ヴィオラという楽器がアンサンブルの中でどのような役割を担い、場面ごとにバランスを見つけていくのかーそうした室内楽への向き合い方そのものも学ばせていただいたと感じています。

―そうした気づきを得て、ご自身の中で大きく変化したと感じる部分はありましたか?

今までは周りの楽器の邪魔にならないように気をつけて演奏していた気がします。でも、今回のプロジェクトで、一緒に音楽を作り上げることの大切さと楽しさを感じることができたことが一番の変化だと思います。周りについていくばかりではなく、「共演するんだ」という意識を持つことができたように感じます。

―その気づきは、今後さまざまなアンサンブルの場面でも活きてきそうですね。では最後に、これから同じような機会に挑戦しようとしている後輩たちへ、メッセージをお願いします。

先生と共演できることはとても貴重な経験です。教えていただく通りに弾くだけではなく、一緒に演奏する中でたくさん学ぶことがあるので、そういった機会にめぐり合ったときは迷わず挑戦してみてほしいです。

―ソロに限らず、室内楽やオーケストラといった“共に奏でる”音楽の中で、川崎さんがこれからどのような表現を育てていかれるのか、とても楽しみになりました。今年は大学最終学年という大切な一年、実りある時間となりますように。貴重なお話をありがとうございました。

ありがとうございました。