受講生インタビュー
小牧高広さん
ステファニー=マリー・ドゥガン教授 ヴァイオリンクラス/ディアナ・リゲティ教授 特別演習「Concerts fleuris – コンセール・フルリ」/ピエール・レネール教授 特別ワークショップ「ヴィオラ入門」受講生
現在中学3年生の若きヴァイオリニスト・小牧高広さん。アカデミーの参加は2回目となります。小学生の頃からバロック音楽への関心を深め、国内外で学びを重ねる中で、ヴァイオリニスト・森悠子氏との出会いをきっかけに、その探求をさらに深めてこられました。2023年からはフランスの講習会にも参加しながら、「音楽を物語として伝える」ことを軸に歩んでおられる小牧さんの“現在地”についてお話を伺いました。
「自分で考えて、試してみる」——森悠子先生から受け継いだもの
-3歳からヴァイオリンを始められたそうですが、きっかけはお兄さんだったそうですね。
幼稚園で兄の同級生がヴァイオリンケースを持っていて、兄が興味を持って体験レッスンに行ったんです。僕はついて行っただけだったんですけど、「自分もやりたい」って言いだして。最初は「まだ小さいから」って言われていたのですが、とにかくずっと「ヴァイオリンを習いたい」と言い続けていたらしくて、3歳の時に始めました。
―早い段階から、ご自身の意思で環境を選んでおられますね。小学校低学年でジュニアオーケストラに参加され、4年生で森悠子先生の“プロペラプロジェクト”にも参加されています。
「プロペラ」に参加した次の週には、個人でも森先生に習い始めました。去年、先生が亡くなられる直前の2025年3月までレッスンを受けていました。
-森先生からの、心に残っている教えは何ですか?
たくさんあるんですけど、「自分で考えて、いろんなことを試してみる」ということです。森先生はアンサンブルをすごく大切にされていて、「響きをよく聴くように」と、いつも言われていました。最初のレッスンで、「全部円でできている」と言われたことも印象に残っています。“渦巻き”とか。弓の動きも「全部が円の運動から来ている」と。「イメージが大事」と仰っておられたことも心に残っています。音のイメージもそうですし、自分で曲のストーリーを作っていくことも大切にされていました。
-2026年の3月にはバロック・ヴァイオリンのリサイタルを開かれました。弦の素材も弓の形状もモダンと異なるバロック・ヴァイオリンに惹かれた経緯を教えてください。
最初はクラシックの曲から始めたんですけど、森先生が「小さい頃からバロックを勉強した方がいい」と言ってくださって、ヘンデルのソナタに取り組んだんです。その時に、音の作り方とか響きへの意識が全然違うと感じて。単純にバロックの曲がすごく好きになって、どんどんハマっていきました。フルサイズに変えた5年生の時に、楽器屋さんでバロック棒を手に入れて、6年生の時にはモダン・ヴァイオリンにガット弦を張って演奏しました。
-そうして少しずつ音の世界を広げていく中で、実際にバロック・ヴァイオリンそのものを手にする機会につながったのですね。
中学1年生の時に、ご縁があって、バロック・ヴァイオリンを貸していただけることになりました。弾いてみると、これまでと全く音が違うんです。小さな雑音がたくさんあって、その音が僕にはとても“あたたかい音”に感じられました。あと、自由さがあります。顎当てもないし、弓も軽くて、本当に自由に弾ける。装飾やカデンツァも自分で考えられるし、オペラやダンスとも結びついていて、“演じている”感覚があるんです。
-国内で研鑽を積まれながらも、2023年からは毎夏、フランスの講習会にも参加されていますが、現地での学びの中で、日本との違いとして特に印象に残っていることはありますか?
生徒がものすごく積極的ですし、自分の考えや思いをしっかり持っていると感じます。同じ先生に習っていても、弾き方や表現が全然違います。“自分の音楽”がちゃんとあるーその強さが違うと思います。それと、「歌うこと」とか「指揮をすること」をすごく大切にしている印象があります。「ヴァイオリンを弾く」というより、「音楽を表現する」ことを重視している感じでしょうか。
-「何を表現したいのか」を大切にされているんですね。今回のアカデミーでも、大きな気づきがあったと伺いました。
昨年は、自分の演奏をちゃんと把握できていないなと思ったんです。自分が出したい音と、実際に出ている音がどれくらい違うのかとか、弓をどこで使っているのかとかーそういうことをちゃんと認識できていなかった。でも今年は、「よく聞いて、よく見る」ことを意識していたせいか、少しずつ音が良くなって、自分の思っている音楽に近づいていった感じがありました。今どのポジションにいるのか、どの弦にいるのか、自分の動きを把握してコントロールすることを、以前より意識できるようになってきたと思います。これは大きな気づきです。
-ご自身の音や身体の感覚を、以前より細かく捉えられるようになっている、ということでしょうか。演奏技術の練習だけでは補えないと思うのですが、ヴァイオリン以外で大切にしていることなどがあるのでしょうか?
曲が生まれた背景とか、その時代の文化を知ることを大事にしています。ぼくは本当に、バロックのヴァイオリンやチェンバロの音色が好きです。当時はホールなんてなくて教会とかで弾いていたから、楽器自体も音も小さいんですけど、“響く”ことを想定しているというか、そういう歴史を勉強して知ることが、面白いです。京都府立図書館で、音楽史やオペラの本を読んだりもします。歌や管楽器、鍵盤楽器のことも読むと、とても勉強になります。実は兄が能をやっていて、父も好きなんです。世阿弥の「風姿花伝」の簡略版を読んだんですけど、森先生が言っていたことと共通する部分がたくさんあって、すごく面白かったです。
-ご家族の影響も含め、音楽や表現への関心が自然に広がっている環境なのですね。将来はどんな演奏家になりたいのでしょう?
抽象的ですけど、自分が思い描いているストーリーとか、劇やオペラみたいなものを、お客さんが感じられるような演奏がしたいです。だから、オペラ座でも弾いてみたいですし、もっと室内楽も勉強したいです。
―お話を伺っていると、“音楽を物語として届けたい”という思いが、一貫して流れているように感じます。今年はリゲティ先生(チェロ)の特別演習クラスも受講されましたが、レッスンはいかがでしたか?
リゲティ先生の「音楽を運んでくれる」感じが素晴らしかったです。これまで管楽器と一緒に弾く機会があまりなかったので、呼吸を合わせるタイミングが大事だということが分かりました。それが音楽的な“間”になったりして。色んなパート、管楽器の息、ブレス、チェロパートーとにかく全てを「聴く」ことの大切さを学びました。
-ヴァイオリンのクラスも拝見しました。終始、ドゥガン先生が笑顔で、小牧さんもじっくりと話を聞いておられて、とても丁寧に音楽と向き合われている印象を受けました。今回のレッスンで特に心に残っていることや、それを今後どのように演奏へ生かしていきたいと感じておられるのか、ぜひ教えてください。
教わったことは、左手をしっかり押さえることと、手首のビブラートです。「しっかり頭で命令するんだ」ということを言われました。左手も右手も、完璧に自分の制御下に置けるようにしたいです。バロックや古典について学んだことを、ロマン派にも生かして、その国の文化や時代背景も学んだうえで、ストーリーが伝わるような演奏に生かしたいです。
-ヴァイオリンだけでなく、さまざまな音楽や表現から学びを広げておられるのが印象的です。最後に、これからこのアカデミーの受講を考えている方へ、メッセージをいただけますか。
自分に足りない部分や、本当に必要なことを、すごく分かりやすく教えてもらえます。自分に合う方法で説明してくださるのも、ありがたいです。あと、いろんな楽器のクラスを聴講できるのも、大きな魅力です。声楽のレッスンや、管楽器の呼吸の使い方は、ヴァイオリンにも役立つことがたくさんありました。いろんな楽器や音楽を知ることが、自分の音楽にもつながっていくんだな、と思います。
レッスン時も取材時も、真っすぐに相手の目を見て、ゆっくりと言葉を紡ぐ姿が印象的でした。バロック・ヴァイオリンを軸に、音楽への探求を深めながら、“音楽を物語として表現する”ことに向き合い続ける小牧さん。今後の進学や、さらなる表現の広がりが楽しみです。