第77回全日本学生音楽コンクール全国大会で第1位に輝き、小澤征爾音楽塾オペラ・プロジェクトXⅪには主席チェロとして参加、2017年から2022年まで佐渡裕とスーパーキッズ・オーケストラに在籍するなど、豊かなアンサンブル経験を積んでいる、チェリストの村上真瑠南さん。4歳でチェロに出会い、多くの舞台を経験してきた今もなお、「もっと深く作品を理解したい」という、その探究心の源と、アカデミーで得た学びについて伺いました。
「もっと深く曲を理解したい」
―お兄様たちがピアノやヴァイオリンを習われている環境で、4歳にも満たない頃に、ご自身の意思でチェロを選ばれたとか。村上さんをそこまで惹きつけたチェロの魅力は何だったのでしょう?
2人の兄たちがピアノやヴァイオリンを習っていたこともあって、母から「何か楽器をやってみる?」と勧められました。コンサートを聴きに行った時に、「あの大きい、低い音の楽器がやりたい!」とチェロを指さしたのが始まりです。兄のお下がりのヴァイオリンが各サイズあったので、母はヴァイオリンの良さを一生懸命説明したそうなんですが(笑)、テレビでオーケストラを見ても、私は画面の前まで走って行ってチェロを指さして「これがやりたい!」と言っていたみたいで。それなら、と母が先生を探してくれました。
―その頃から、チェロに惹かれていた、と。
そうですね。テレビに張り付いていたことは今でも覚えています。「この低い音がいい!」という感じで。高い音よりも低い音のほうが落ち着いたのかもしれません。それに、チェロを弾いている人が、どこかおっとりした方が多い印象があって、それも自分の性格に合っていたのかなと思います。最初の先生には高校に入る頃まで教えていただいていました。レッスンは本当に楽しくて、曲が仕上がるたびに、先生がチェロで伴奏してくださって、先生のおかげで小さい頃から人と一緒に演奏する楽しさを自然に経験させてもらいました。
―音楽を楽しむことを教えてくださった先生だったのですね。でも、単に“楽しい”だけでは「全国一」にまでは到達しないと思うのですが?
先生が「本気でやらせよう」とされたわけではなくて、先生の指導法についていっていたら、気がついたら弾けるようになっていて、コンクールに挑戦したら賞をいただけるようにもなっていた、という感じです。
―その後、佐渡裕スーパーキッズ・オーケストラに参加されています。
小学校5年生から高校1年生くらいまで在籍していました。それまでは先生とのレッスンやソロ演奏が中心だったので、みんなで一つの音楽を作る経験は本当に新鮮でした。オーケストラに入ったのも初めてで。音を重ねたり、アンサンブルを組んだり、オーディションに挑戦したりーすごく楽しかったです。
―事前にお願いしていたアンケートにも「室内楽やオーケストラが好き」と書かれていますね。
4歳の頃から誰かと一緒に演奏する楽しさを感じてきたので、室内楽もオーケストラも大好きです。ただ、そのうえで将来的にはソリストとして一人前になりたいという気持ちがあります。
―高校2年生の時に、全日本学生音楽コンクール全国大会第1位を受賞されています。それと同時に、聴衆からの評価である横浜市民賞や、主催者からの評価でもあるNHK会長賞も受賞され、審査員だけでなく聴衆や主催者すべてから高く評価された受賞でしたが、受賞後に変わったことはありましたか?
受賞後に学校で演奏会をしたり、周りから「おめでとう」と言っていただいたり、嬉しかったことはたくさんありました。でも、毎年新しい受賞者が出てくるので、立ち止まってはいられないな、と。「1位だった人」として見られるので、成長し続けなければいけない、という気持ちが強くなりました。
―受賞は大きな自信になる一方で、新たなプレッシャーも生まれたのですね。そして高校を卒業され、現在は桐朋学園大学で学ばれています。
東京で初めて一人暮らしを始めたのですが、最初は「本当に」大変でした。実家では練習に集中できていたのに、今は家事も全部自分でやらないといけなくて。1人暮らしを始めて3カ月目ぐらいの、1年生の夏にリサイタルを開いたのですが、本番中に曲が一瞬飛んでしまいました。曲が飛んだのは初めてです。本当に焦りました(笑)。練習不足だったと思います。でも、その経験を通して改めて練習の大切さや、本番に向けて準備することの大切さを実感しました。一方で、東京には素晴らしい先生方や演奏家がたくさんいて、日々刺激を受けています。
―ソロもオケもアンサンブルも経験されたうえで、将来、どのような演奏家になりたいですか。
まだ模索中ですが、もっとパワフルな音色を出せるようになりたいです。私は小柄なので、どうしても体格の大きな演奏家との違いがあります。でも今師事している山崎伸子先生は私より小柄なのに、とても力強い音を出されます。姿勢や楽器の構え方、身体の使い方を徹底的に研究されていて、「研究に終わりはない」とおっしゃるんです。「なるほど!」と思って。
―音楽だけでなく、演奏する身体そのものも学んでいるのですね。
はい。どうすれば無理なく、より良い音が出せるかを考えるようになりました。
―さて、今回アカデミーへの参加を決めた理由を教えてください。
学校にパンフレットが置いてあったんです。友人や先生方からも「個人レッスンだけじゃなくて、室内楽も聴講も勉強になるよ」と聞いていましたし、将来的に留学も考えているので、日本にいながらヨーロッパの先生のレッスンを受けられるのは貴重な機会だと思って応募しました。実際に参加してみると、同じ先生にじっくりレッスンしていただけるし、フランス語がまったく分からなくても、通訳の方が本当に親身に分かりやすく訳してくださるので、先生の意図をしっかり理解することができました。レッスンの雰囲気もよくて、とても充実した毎日でした。アカデミーは語学のハードルが低いので、留学への気持ちが高まりました。
―今回受講したジュリー・セヴィヤ・フレッス先生のレッスンで印象に残っていることはありますか。
ジュリー先生は、本当にたくさんの知識を持っていらっしゃって、自分では気づかなかった解釈のヒントをたくさんくださいました。受講している間ずっと、「いいレッスンを受けているな」と感じる毎日でした。バッハ研究の最新の成果や新しいエディションについても教えてくださって、実際に楽譜を見せていただく機会もありました。チェリストにとってバッハの無伴奏はとても大切な作品なので、とてもありがたかったし、自分でも勉強を重ねようと思います。
―演奏技術だけではない学びがあったのですね。
私は一つひとつの音を丁寧に弾こうとしすぎる傾向があって、「もっと全体の流れやまとまりを考えて」と指摘していただいたので、今回の受講を通して、作品そのものを深く理解することの大切さを改めて実感しました。
―アカデミーを通して得た一番大きなものは何でしょう。
海外で学んでみたいという気持ちが強くなったことです。まだ語学に自信がなくて、フランス語も英語もこれから頑張らないといけないのですが、海外の先生に学ぶことへのハードルが下がりました。いつか留学をして、知識の裏打ちを持った演奏家になりたいと思います。
「話すのがあまり得意ではないのですが」と少し遠慮がちに言いながらも、受講生コンサート直前の貴重な時間を割いて取材に応じてくださった村上さん。「もっと深く理解したい」「まだ知らないことがたくさんある」という思いが何度も語られました。幼い頃に「この楽器がいい!」と自ら選んだチェロと、今も変わらず真摯に向き合い続けるその探求心が、これからどんな音楽へと結実していくのかー。またお話を伺える日を楽しみにしています。ありがとうございました。
公開レッスン・受講生コンサート写真撮影:中西紀郎