佐々木つくしさん

受講生インタビュー

佐々木つくしさん

2026年 レジス・パスキエ教授 ヴァイオリンクラス受講生

第75回プラハの春国際音楽コンクールで優勝し、現在はベルリン・フィルハーモニー管弦楽団カラヤン・アカデミーで研鑽を積むヴァイオリニスト・佐々木つくしさん。ドイツでの日々を送りながら、「いつかフランスの先生のレッスンを受けてみたかった」と、今回初めて京都フランス音楽アカデミーに参加されました。パスキエ教授のレッスンを通して見えたフランス音楽の本質、ドイツでの日々、そして音楽家として目指す姿について、ベルリンを拠点に活動する佐々木さんにオンラインでお話を伺いました。

「音楽と言葉がつながる場所」

―コンクールやレッスンのお忙しい時期にありがとうございます。また、3月と4月には京都でのリサイタルなどもお疲れさまでした。アカデミーの開講とちょうど重なっていましたよね。

はい。あの時期は京都に滞在できるタイミングだったので、「これは行けるな」と思って参加しました。演奏会の合間に、ちょうど京都にいられる日程だったんです。藝大の同級生が受講していたこともあって、前から気になっていました。

―ドイツで学ばれていて、今回フランスの先生のレッスンを受けてみて、違いは感じましたか?

他のクラスを聴講できなかったのが残念でしたが、パスキエ先生のレッスンだけでも印象が大きく変わりました。ドイツではベートーヴェンやブラームスが“言葉”のように感じられるようになってきたんですが、フランス音楽はまだ自分の中で“知らない世界”が多くて。

―レッスンを拝見しましたが、パスキエ先生は作品の細部にとてもこだわっておられる印象でした。実際に受講されてみて、フランス音楽への理解で何か変化はありましたか?

はい。それまでは、ドビュッシーやショーソンなどの作品は、印象派の絵画みたいに輪郭を少し“ふわっ”とぼかして、色彩豊かに淡く弾いていたところがあったんですが、先生はリズムや発音、音の作り方をすごく細かく見てくださって。印象派の絵も近くで見ると緻密な点の集まりですよね。フランス音楽も同じで、一つひとつの積み重ねがあの響きになるんだと感じました。

―ドイツでの学びとの違いは?

ドイツに来てから、ベートーヴェンやブラームスがとても身近になりました。知識として知っていても、自分の“血”にはなくて、心と完全につながっていない部分があったんです。でも実際にその言語で生活していると、楽譜が“言葉”のように感じられる瞬間があって。だからこそ逆に、フランス音楽にはまだ自分の知らない世界があると感じていました。今回のレッスンで、「フランス音楽ってこういうことだったのか」と思う発見がありました。

―パスキエ先生から学んだことで、特に印象に残っていることは?

どんな曲でも、まず音楽を楽しむことを忘れない方でした。すごくチャーミングで(笑)。作品のキャラクターを大切にしながら、それをどう表現するかを常に考えておられる。その姿勢にとても刺激を受けました。何よりも、先生が実際に弾いてくださる“音”です。年齢を感じさせない生命力があって、「いつか自分もこういう音を出せるようになりたい」と思いました。

―2024年のプラハの春国際音楽コンクール優勝は、日本人として大きな快挙でした。

全く予想していませんでした。ファイナルに行けたのも驚きで、「三位でも全然いいから頑張ろう」という気持ちでした。

―本番ではどんな心境だったのでしょう。

留学して初めての大きな舞台だったので、ワクワクしていました。ラウンドを追うごとにリスクを冒せるようになって、伴奏者の方に言われた「ミスの数じゃなくて、心を動かされたかどうかなんだよ」いう言葉が大きかったです。練習してきたことを思い出すのではなく、「今の自分にできることを全部届けよう」という気持ちで弾けたことが、自分の中では大きな収穫でした。

―現在はカラヤン・アカデミーで研鑽を積まれています。どんな日々ですか?

オーケストラのプロジェクトがある週は、リハーサルと本番が生活の中心になります。ベルリン・フィルのメンバーと同じ舞台に立つ機会もありますし、アカデミー生だけのプロジェクトもあります。ソリストとしての経験が中心だったので、オーケストラの中で演奏することは新しい挑戦でした。

―ソリストとオーケストラ奏者では何が違うのでしょうか?

ソロは自分の音を客席に届けることに集中できます。でもオーケストラでは、自分の音だけでは成立しません。周りの奏者や指揮者、全体の響きをまとめて客席に届けないといけない。意外とそういうレッスンを受けていなかったので、最初は見よう見まねでやっていて、自信をなくした時期もありました。でも今はとても勉強になっています。

―ベルリン・フィルの中に身を置いてみて、外から見ていた時との違いは?

一人ひとりの個性が本当に強いことです。でも優れた指揮者のもとでは、その個性がものすごい集中力で“ギュッ”と一つにまとまって、想像を超えるエネルギーが生まれるんです。その瞬間を間近で体験できることは大きな財産です。

―佐々木さんが目指す「音」とはどんな音でしょうか?

難しいですね…。でも今回パスキエ先生の演奏を聴いて感じた、一音一音に“魂がこもっている”ような音。私はまだそこまで行けていません。10日に1音くらいは出せているかもしれませんけど。

―10日に1音!?ご自身ではそう思われるんですね。

はい。技術的なことはもちろん大事ですが、最後に人の心を動かすのは、経験や生き方のようなものが音ににじむ瞬間だと思っています。でもパスキエ先生は私ぐらいの年の時でも出していたかもしれないですね(笑)。

―レッスンを受ける上で大切にしていることなどはありますか?

どんな先生のレッスンでも、まずは全部受け取るつもりで臨みます。その場で「合わない」と判断せず、一度受け止めて、後から取捨選択する。私は結構ノートに“その先生が自分に何を伝えようとしていたか”を書き留めるようにしています。後で読み返すとヒントになることが多いんです。

―挫折を感じたり、練習したくない日などはあるんでしょうか?
あります(笑)。ベルリンでは周りが上手すぎて、目移りしすぎて自分の弾き方がわからなくなったことがありました。でもそういう日は家事をしたり、ヨガをしたり、一音だけ弾いてみたりすると意外にやる気が戻ってきます。今はとにかく、自分のやりたいこと、なりたい姿になれるように研鑽中という感じです。

―これまでのお話から、佐々木さんがどんな環境でも自分の歩幅で前に進んでおられることが伝わってきました。もっと伺いたいことは尽きないのですが、最後に京都フランス音楽アカデミーを検討している方へメッセージをいただけますか?

海外の先生方から直接学べることはもちろんですが、他のクラスのレッスンや演奏会から得られる刺激も大きいと思います。異なる文化や価値観に触れることで、自分の音楽を新しい角度から見つめ直すことができます。そうした出会いを求めている方には、ぜひ参加してほしいです。

 

ドイツで学びながら、フランス音楽の新たな世界に触れた佐々木さん。ベルリンでの研鑽、そしてカラヤン・アカデミーでの挑戦。「10日に1音くらいしか出せない」と笑いながら語った“魂のこもった音”への憧れを胸に、今も新たな学びと挑戦を重ねています。さらなる飛躍を楽しみにしています。ありがとうございました。